どのような方でも使いやすいユニバーサルデザインは、さまざまな場面で実用化されており、容器や袋など商品のパッケージにも取り入れられています。
一方、「どのようにユニバーサルデザインを導入すればよいかわからない」と悩まれている方もいるでしょう。
本記事では、パッケージをユニバーサルデザインにするポイントやメリット、印刷のコツなどを紹介します。自社のブランドイメージ向上や売上アップに向けて、ぜひご覧ください。
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザイン(UD)とは、年齢や性別、文化、身体の状況に関係なく誰もが使いやすいデザインの総称です。1980年代にアメリカでユニバーサルデザインの概念が生まれ、以下のような7つの原則にまとめられています。
- 誰にでも公平に利用できる(公平性)
- 使用者の好みや能力に合わせて使用できる(自由性・柔軟性)
- 使い方が簡単ですぐわかる(単純性)
- 必要な情報がすぐに理解できる(わかりやすさ)
- うっかりミスを起こしにくく危険性が少ない(安全性)
- 少ない力で無理なく使用できる(省体力)
- アクセスしやすいスペースと大きさを確保している(スペースの確保)
参照:N.C.State University「Center for Universal Design」
ユニバーサルデザインを考える際は、7原則に沿うことが重要です。高齢の方や外国人、障がいのある方などさまざまな視点に立ちながら、使いやすいデザインを考えましょう。
現在は、日本を含め、世界中で多様性が尊重されています。公共の施設はもちろんのこと、各企業の製品やサービスにユニバーサルデザインを取り入れることは、当たり前の責務となっているといえるでしょう。
パッケージをユニバーサルデザインにするメリット
自社商品のパッケージにユニバーサルデザインを取り入れてPRすれば、企業やブランドのイメージ向上につながります。
また、一般的なデザインと比べてより多くの人々に商品の魅力を理解してもらえるため、新たな顧客獲得や売上アップの効果も期待できるでしょう。
このほか、誤った使用法による火傷や切り傷といったケガ・事故も減らせるなど、安全性が高まるのもメリットです。
インバウンド効果で外国人にもわかりやすいパッケージの需要が増加
新型コロナの収束に伴い、外国からの旅行者数が再び増加傾向にある中で、文化や言語が違っても商品の使い方がわかるパッケージの重要性は増しています。
日本語のみの表示だが、説明部分をなるべく減らして、アイコン、ピクトグラム化して見ただけで分かりやすいような表示の需要が増えています。
パッケージをユニバーサルデザインにするポイント
冒頭で紹介したユニバーサルデザインの7つの原則をパッケージに当てはめると、以下のようになります。
デザインのポイント (対応する原則) | 具体例 |
商品の情報がすぐに理解できる (単純性・わかりやすさ) | ・文字が大きくて見やすい ・イラストが多くて商品の内容が理解しやすい |
パッケージを開封しやすい (省体力) | ・左右どちらからでも開封できる ・軽い力で商品の中身が取り出せる |
商品を安全に利用できる (安全性) | ・開け口が鋭利ではなくケガをしにくい ・熱さや冷たさが伝わりにくい容器である |
障がいのある方でも使いやすい (公平性・わかりやすさ) | ・ラベルの表面に点字加工を施す ・開封時に大きめの音が出る |
一人でも多人数でも使いやすい (自由性・柔軟性) | ・少量ずつ小分けされている ・携帯しやすくどこでも持ち歩ける |
上記はあくまで一例であり、扱っている商品やターゲットによって最適な方法は異なります。消費者の声や競合商品などを踏まえながら、自社に合ったデザインを考えましょう。
また、ユニバーサルデザインを初めて手がける際、自社だけでは適切な案が出ないこともあります。その場合は、実績が豊富なデザイン会社・印刷会社に相談するのも一つの方法です。
パッケージをユニバーサルデザインにする具体的な方法
パッケージにユニバーサルデザインを取り入れるためには、パッケージそのものの形状を工夫する方法と、印刷方法を工夫する方法の二つがあります。
一つの商品で両方の視点を取り入れることも多くありますが、あらかじめ両方の特徴を知っておくことで、自社の商品にとって適切な方法を選びやすくなるでしょう。
それぞれ詳しく説明します。
パッケージそのものの形状を工夫する
パッケージである容器や袋の形状をユニバーサルデザインにすれば、触覚や聴覚などさまざまな領域に訴えかけられます。自社の類似製品に横展開しやすいのもメリットです。
例えば、大手食品メーカーのキューピーでは、マヨネーズのボトルに細口と星型の両方で絞り出せるWキャップを採用し、用途に応じて使い分けられるようにしています。キャップは軽い力でも回しやすく、子どもや高齢の方が使用しても手が痛くなりにくいのが特徴です。
ほかにも、ドレッシングやジャムの容器には、「ドレ」「ジャム」などと点字を付けて、類似商品と見分けやすくしています。
また、各メーカーのシャンプーボトルの側面には、触ったらわかるギザギザが付いています。これは、目で確認しなくても、触るだけでシャンプーとリンス(コンディショナー)を見分けるためのものです。髪を洗うときに目を閉じる多くの方に便利なのはもちろん、視覚障がいのある方や高齢の方にも配慮したユニバーサルデザインの例といえます。
ただし、パッケージの形状を工夫する方法は、商品の製造工程にかかわるため、デザインを変えるまでに時間がかかりやすい点に注意が必要です。また、一度制作したら変更には手間がかかるため、慎重に検討するとよいでしょう。
印刷方法を工夫する
印刷技術を活用してパッケージにユニバーサルデザインを取り入れる方法もあります。
既存のパッケージを印刷で加工するため、パッケージが製品のシンボルマークになっている場合や、デザインを大きく変えるのが難しい場合などに適した方法です。
また、パッケージの形状を変更しないので、比較的早くユニバーサルデザインを導入できるのもメリットです。印刷後の実物やユーザーの反応を見て調整もしやすく、初めてユニバーサルデザインを取り入れる際にも適しています。
ただし、点字加工などの特殊加工は自社での対応が難しく、場合によっては外注が必要になります。また、すべての印刷会社にユニバーサルデザインのノウハウが豊富にあるわけではないため、依頼先を選ぶ際には実績やサンプルなどを確認しましょう。
パッケージにユニバーサルデザインを印刷するコツ
パッケージにユニバーサルデザインを印刷するコツは、以下のとおりです。
- フォントや配色に気を配る
- レイアウトを工夫する
- 特殊な加工を取り入れる
それぞれ詳しく説明します。
フォントや配色に気を配る
ユニバーサルデザインにするために、フォントや配色に気を配る必要があります。主なポイントとしては、以下のとおりです。
ポイント | 詳細 |
フォント選び | ・長い文章には明朝体、短い文章にはゴシック体が適している ・視覚が弱い方や高齢の方でも読みやすいUDフォントもある |
フォントサイズ | ・レイアウトが崩れない範囲で可能な限り大きくする ・例えば、A4サイズの場合は12~14ポイントが目安である (12ポイントを下回ると高齢の方は見にくいとされている) |
記載方法 | ・文字を詰め込みすぎない ・漢字が多いと字間が狭く見えるので注意する ・フリガナや注釈を必要に応じて付ける |
配色のポイント | ・配色にメリハリを付ける ・暖色(赤や黄)と寒色(青や緑)を対比させるとよい |
配色の注意点 | ・幅広い年代の方が見分けやすい色を使う ・黄緑、黄色、明るい緑といった似た色は同時に使わない ・濃い赤は黒と区別しづらい方がいるため、橙色寄りのものを使う |
なお、UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)とは、誰もが読みやすく、読んでて疲れにくいフォントです。線の太さが同じで、文字の中の隙間が大きいのが特徴で、文字が小さくても潰れにくい性質があります。各種ソフトで使えるほか、デザイン会社・印刷会社でもデザインの一つとして採用・提案しています。
フォントや配色のポイントを押さえて、自社の商品に合った方法を導入しましょう。
レイアウトを工夫する
フォントや配色に加えて、全体のレイアウトにも以下のような注意点があります。
- 結論や一番伝えたいことは、意識的に目立たせる
- 文章は積極的に箇条書きを用いる
- 読み手の目線を意識して、囲みや矢印を用いて文字を読みやすくする
- 絵や図、グラフなどを入れて理解度を高める
- 重要なポイントは色だけでなくフォントも変えて、必要なら囲み線を付ける
パッケージを手に取る消費者の目線に立って、見栄えだけでなく、わかりやすさに重点を置いてレイアウトを検討しましょう。
特殊な加工を取り入れる
特殊な印刷加工によってユニバーサルデザインを取り入れる方法も有効です。
例えば、シルク印刷はインクに厚みを持たせ、立体感を出す印刷方法です。前述のとおり、シャンプーボトルにはリンスと見分けるためのギザギザを付けますが、既存の容器には入っていないものもあり、容器を製造するにはコストがかかり、小ロットでの製造は難しい場合があります。
そこで、シルク印刷のシールを貼れば、既存の容器の形状を変えなくてもユニバーサルデザインを導入できます。
また、シルク印刷は点字加工にも使用できますが、通常の点字のほかに点文字と呼ばれるものがあります。点文字は、文字の上にそのまま点をのせたもので、点字を知らない中途視覚障がいの方にも理解しやすいのがメリットです。
前述のとおり、印刷による加工はパッケージの形状を変更するよりも手軽にできる傾向があります。ただし、印刷会社によって対応範囲や技術が異なるので、まずは実績のある会社に相談してみましょう。
まとめ
パッケージにユニバーサルデザインを取り入れることで、より多くの人が商品を使えるようになり、売上の増加や企業のイメージアップにつながります。
ユニバーサルデザインを導入する際は、7つの原則を意識しながら、自社にとって最適なデザインを検討する必要があります。パッケージの形状を変える方法もありますが、まずは特殊加工などの印刷によってデザインを変更してみるのもよいでしょう。