食品包装を制作するにあたっては、食品衛生法のポジティブリスト制度を踏まえる必要があります。
企業担当者の方の中には、制度の内容や対象が複雑で分かりにくいなど、悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、食品包装のポジティブリストの概要や対象物質、印刷に関する注意点などを解説します。法律に沿った食品容器や包材をスムーズに制作したい方は、ぜひご覧ください。
※本記事は2024年9月時点の公表情報をもとに執筆しています。最新の制度の内容は、厚生労働省のホームページを併せてご確認ください。
食品包装のポジティブリストとは
ポジティブリスト制度とは、食品に扱う器具や包装・包材に関して法律で安全と定める物質だけを使用可能とする制度です。2018年6月食品衛生法の一部改正を受け、2020年6月にポジティブリスト制度の運用開始となりました。
日本でこれまで運用されていた制度はネガティブリストです。しかし海外ではポジティブリストを導入している国が多かったため、日本も国際的な流れに合わせてポジティブリストを導入しました。
関連事業者には事業者間の情報伝達や届出制度が規定され、違反をした事業者には罰則もあります。ポジティブリストの導入を通じて、これまで以上に食の安全性の向上が期待されています。
参照:厚生労働省「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について」
ネガティブリストとの違い
日本では、ポジティブリストが導入される前は、ネガティブリストによって規制されていました。ポジティブリストとネガティブリストの違いは、以下の表のとおりです。
項目 | ポジティブリスト | ネガティブリスト |
原則 | すべての物質が使用禁止 | すべての物質が使用可能 |
使用の可否 | 安全性が確認された物質のみ使用許可 | 安全性の不安が認められる物質の使用を制限 |
リストに載っている物質 | 使用可能 | 使用不可 |
ネガティブリストの問題点は、リストに記載していない物質なら安全性が不明な物質でも使用できる点にあります。
たとえ海外で規制されている物質でも、ネガティブリストに載っていなければ国内では使用が可能だったため、問題が起こった場合の対応が後回しになりがちでした。
そこで食の安全をより高めるため、関連事業者が規制を守りやすくなるよう導入されたのがポジティブリストです。以前から業界では自主規制でポジティブリストが運用されていましたが、食品衛生法の改正により法規制に至りました。
ポジティブリスト制度のメリット
ポジティブリスト制度には、企業の成長にとって大きなメリットがあります。主なメリットは以下の2つです。
- 食の安全性とブランド価値の向上が期待できる
- 海外との取引がこれまで以上に円滑になる
ポジティブリストには、安全に使用可能な物質がリスト化されています。制度の導入により、食の安全性と品質の向上が期待でき、食品のブランド価値が高まります。
また、海外との取引においてもポジティブリストの役割は重要です。海外との取引を行う場合、輸出は相手国の規制に適合している必要があり、輸入は日本のポジティブリストに適合している物質でなければならないからです。
ポジティブリストは国際基準に沿ったものであり、その活用により企業はグローバル展開が行いやすくなります。
食品包装のポジティブリストの対象
ここでは、食品包装のポジティブリストの対象について、以下の2つに分けて詳しく紹介します。
- 食品衛生法にもとづく容器包装の定義
- ポジティブリストの対象物質
いずれも食品衛生法・食品衛生法施行令が根拠法令です。
なお、本制度適用の猶予期間は2025年5月31日までです。この期間はポジティブリストに適合していない食品包装でも法律上は違反になりません。
食品衛生法にもとづく容器包装の定義
ポジティブリスト制度が適用される容器包装とは、食品や添加物を入れたり包んだりする容器・包材を指します。箱や袋、包装資材、ビンなど、一般的に食品パッケージなどと呼ばれるものです。
食品衛生法では以下のように定義されています。
第4条5項 この法律で容器包装とは、食品又は添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのままで引き渡すものをいう。
引用:e-Gov 法令検索「食品衛生法」
なお、食品包装のほかにも、箸やフォーク、茶碗などの食器類、さらにはおたまやターナーなどの割ぽう具類も食品衛生法上の器具にあたるため、すべてポジティブリストが適用されます。
ポジティブリストの対象物質
ポジティブリストは、現時点で合成樹脂を使用した器具と容器包装が対象です。一例をあげると、合成樹脂によってできた食品包装や、合成樹脂で表面を加工した包装などがあります(※)。
食品包装の場合、紙パッケージや木製包材など自然由来の物質はポジティブリストの対象から外れています。
また、食品に直接触れない場所に使用される物質に関しては、健康を損なうおそれのない量(0.01mg/kg以下)であれば規制の対象にはなりません。
なお、現在は厚生労働省において、合成樹脂以外の物質もポジティブリストへの対象追加を検討中です。
※合成樹脂の中でも熱可塑性のない物質であるゴムは対象外。熱可塑性とは、熱を加えると柔らかくなって変形し、冷やすとまた固まる性質のこと。
食品包装のポジティブリストに関わる印刷の注意点
ここでは、食品包装や包材への印刷においてポジティブリストがどのように関わってくるのか、以下の2点に分けて具体的に紹介します。
- 印刷インキは食品に直接触れてはならない
- ラベル・シールの接着剤は基準を踏まえて選ぶ
印刷を用いた食品包装の制作を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
印刷インキは食品に直接触れてはならない
現時点では、日本国内で運用しているポジティブリストに記載している印刷インキはありません。
そのため、食品の容器包材に印刷をする際には、食品部分にインキが直接当たらないように気をつけなくてはいけません。仮に容器包材に使用している物質が紙や木材などポジティブリストの対象外のものでも同じです。
もし食品容器・包材の食品に接する面に印刷をするなら、インキが食品に直接触れないよう、表面にラミネート加工などをする必要があります。
また、加工の際に表面に使用する物質は、インキに含まれる合成樹脂が一定以上溶け出してこないものを選ばなくてはいけません。
なお、食品に直接当たらない包装の外側への印刷は、ポジティブリストの対象から外れます。
ラベル・シールの粘着剤は基準を踏まえて選ぶ
紙などで制作する食品包装でも、食品に直接触れる部分はポジティブリストを踏まえる必要があります。
例えば、野菜や鮮魚などに直接貼り付けるラベルやシールの場合、合成樹脂である粘着剤はポジティブリストに適合したものを選ばなくてはいけません。
ポジティブリストなどの制度は常に改訂されていきます。そのため、制度に適合した品質の高い食品包装の制作に向けては、情報を随時収集し、ポジティブリストに対応している印刷会社などに必要に応じて相談をしてみるとよいでしょう。
まとめ
ポジティブリスト制度は食における安全性の向上や信頼性の確保に寄与し、企業のグローバル展開を有利にします。
安全な食品包装の制作を行うためには、ポジティブリストの概要をしっかり理解することが大切です。食品包装の印刷には、インキが直接触れないようにしたり、ポジティブリストに適合した粘着剤を使用したりしなければいけません。
また、ポジティブリストの規制対象外の製品の場合にも、業界団体が安全基準を独自に規定していることがあります。
食品包装事業に携わる方や容器包材のデザイン担当の方は、本記事を参考にして、法律に適合した食品包装の制作に着手しましょう。