酒ラベルには、商品の魅力を伝える役割や法で定められた情報を表示する役割があります。
企業のマーケティングや信頼性に関わるポイントであり、印刷を行う前に必要な知識を身につけることが重要です。一方で、具体的なルールやデザインのノウハウをあまり知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、酒ラベルの概要やルール、オリジナルデザイン制作のポイント、事例など、知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説します。
酒ラベルとは

酒ラベルとは、商品の魅力や特徴を消費者に伝える大切な装飾です。いわば酒の「顔」といえるものであり、オリジナルデザインで消費者の目を引きつけたり、ブランドイメージをアピールしたりといった工夫が大切です。
ここでは、酒ラベルの中でもメジャーな日本酒ラベルに関する情報を中心に解説します。
酒ラベルの種類と役割
酒ラベルの種類には、以下の3つがあります。
種類 | 特徴・役割 |
肩ラベル | ・瓶の上部に貼るラベルで、日本酒や焼酎などによく使われる ・消費者に強く伝えたい要素を書く場合が多い ・例えば「季節限定」「大吟醸」などと記載する |
胴ラベル(表ラベル) | ・瓶の前面に貼るラベル ・酒の顔ともいえる最も印象的な部分で、デザインが特に重要 ・商品名や基本情報を書く場合が多い |
裏ラベル | ・瓶の裏面に貼るラベル ・法で義務づけられた情報を記載するのが一般的 ・美味しい飲み方や保存方法など、購入者に役立つ情報が記載される場合もある |
酒ラベルは種類によって役割があるため、役割に沿ったデザインを考えましょう。
酒ラベルの必要記載事項
酒ラベルには、法律で定められた事項を記載する義務があります。
例えば日本酒のラベルは、以下の項目を原則8ポイント以上の大きさの文字で表示するよう義務づけられています。
- 原材料名
- 保存または飲用上の注意事項
- 原産国名
- 外国産清酒を使用したものの表示
- 製造者の氏名または名称
- 製造場の所在地(記号で表示してもよい)
- 内容量
- 清酒(※)
- アルコール分
※原料の米に国内産米のみ使用、かつ、日本国内製造の清酒に限り「日本酒」と表示可能
これらの記載に使用可能な書体は、原則として「楷書体」か「ゴシック体」です。
酒類の品目の表示は内容量に応じて文字サイズが定められており、例えば清酒の場合は以下のとおりです。
内容量 | 文字サイズ |
3.6L超 | 42ポイント |
1.8L超・3.6L以下 | 26ポイント |
1.0L超・1.8L以下 | 22ポイント |
360mL超・1.0L以下 | 16ポイント |
360mL以下 | 14ポイント |
また、定められた基準を満たす酒は「特定名称酒」と呼ばれ、次の8種類に分けられます。特定名称を表示する場合、原材料名の近くに精米歩合の記載が必須です。
特定名称 | 特徴 |
吟醸酒(ぎんじょうしゅ) | 精米歩合60%以下の吟醸造り |
大吟醸酒(だいぎんじょうしゅ) | 精米歩合50%以下の吟醸造り |
純米酒(じゅんまいしゅ) | 精米歩合の規定なし |
純米吟醸酒(じゅんまいぎんじょうしゅ) | 精米歩合60%以下の吟醸造り香味や色沢が良好とされる |
純米大吟醸酒(じゅんまいだいぎんじょうしゅ) | 精米歩合50%以下の吟醸造り香味や色沢が特に良好とされる |
特別純米酒(とくべつじゅんまいしゅ) | 精米歩合60%または特別な製造方法(要説明表示) |
本醸造酒(ほんじょうぞうしゅ) | 精米歩合70%以下 |
特別本醸造酒(とくべつほんじょうぞうしゅ) | 精米歩合60%以下または特別な製造方法(要説明表示) |
※純米酒の使用原料は米・米こうじ・水のみ
※純米酒以外の使用原料には、米・米こうじ・水に醸造アルコールが含まれる
※こうじ米の使用割合はすべて15%以上
なお、上記は2025年1月時点での公表情報をもとに記載しています。法令は随時変更される可能性があるため、必ず国税庁のホームページを併せて確認してください。
「酒類の表示方法チェックシート」では、品目ごとに守るべきルールが一覧化されています。また、最寄の税務署に問い合わせれば、専門の担当官に相談ができます。
参照:国税庁「『清酒の製法品質表示基準』の概要」
参照:国税庁「酒類の表示方法チェックシート」
酒ラベルの記載禁止事項
酒ラベルには、以下のような記載禁止事項があります。
- 「最高」「第一」「代表」など業界の最上級を意味する表示
- 品評会の受賞作と誤認させる表示
- 官公庁が推奨しているかのように誤認させる表示
- 特定名称酒ではない酒に対し、特定名称またはそれに類似する表示
いずれも消費者の誤認を防ぐ目的で禁止されています。酒ラベル制作の際は注意しましょう。
参照:国税庁「『清酒の製法品質表示基準』の概要」
酒ラベルの印刷に関する基本情報

酒ラベルの印刷に関する基本情報として、以下の4つを紹介します。
- 印刷方法と特徴
- 素材ごとの雰囲気と機能
- デザインを引き立てる特殊加工
- 仕上がりの種類
それぞれ詳しく見ていきましょう。
印刷方法と特徴
酒ラベルの印刷方法には、以下の4つが主に挙げられます。
印刷方法 | 特徴 |
オンデマンド印刷(デジタル印刷) | ・版を作らずデジタルデータを直接印刷 ・小ロット・多種類の酒ラベル向き |
オフセット印刷 | ・印刷版を作成して大量印刷 ・大ロットの酒ラベル向き |
凸版印刷(活版印刷) | ・印刷内容が凸状になった版で圧力をかける印刷方法 ・輪郭がはっきり印刷されるため、シンプルなデザイン向き |
孔版印刷(シルクスクリーン) | ・網の目状の印刷版を用いる印刷方法 ・インキが厚く盛れるため、耐久性が必要な酒ラベル向き |
印刷方法は、印刷会社と相談をしながらロット数やデザインに応じて決めましょう。

素材ごとの雰囲気と機能
酒ラベルの印刷でよく使われる素材に、和紙や上質紙、ユポなどがあります。各素材の特徴は、以下のとおりです。
素材 | 特徴 |
和紙 | 日本酒の持つ和の雰囲気を引き立てる |
上質紙 | ナチュラルな雰囲気で、文字の可読性が高い |
ユポ | 丈夫で耐水性のある合成紙 |
肩・胴・裏の各ラベルを同じ素材に揃えると統一感が出ます。反対に、あえて違う素材を使用すれば、素材の持つ特徴を一段と引き立てるのに役立つでしょう。文字の可読性を優先して、裏ラベルのみ上質紙を使う場合もあります。
これらのほかに、光沢のあるコート紙や金銀のホイル紙などもよく使われる素材の例です。酒ラベルの素材は、求めるデザインや機能をもとに検討しましょう。

デザインを引き立てる特殊加工
酒ラベルの印刷に向いている特殊加工は、以下のとおりです。
特殊加工 | 特徴 |
箔加工 | 金銀メタリックなどの箔を押して、高級感やプレミアム感を演出する |
ラミネート加工 | 表面にツヤやマットなどの加工を施したフィルムを貼る |
エンボス加工 | 凹凸の加工で表面に立体感を出す |
レーザー加工 | レーザーでラベルを型抜きする |
加工にはそれぞれ特徴があり、デザインに与える効果が異なります。加工を選ぶ際は、酒ラベルにどのような印象を持たせたいかを考えながら選びましょう。



仕上がりの種類
ラベルの仕上がりは、大きく分けて「糊あり」「糊なし」の2種類があります。
シート状になっている糊のあるタイプは、小ロットなら手作業で貼ることも可能です。季節限定など小ロット生産の場合や、ラベラー(ロール紙を貼る専用機械)の導入が難しい場合は、シート状の糊のあるシールを使用します。なお、ラベラーを使用して貼り付ける場合はロール状になっています。
一方で、糊のないタイプはロール状になっており、糊を吹きつけながら貼っていくのが基本です。瓶に貼るときは、専用のラベラーを用意する必要があります。機械による高速貼り付けが可能なため、大量生産するなら糊のないタイプが向いています。
なお、素材の選択肢は、糊ありよりも糊なしの方が多い傾向です。
マーケティングにおける酒ラベルの重要性

酒ラベルは、マーケティングにおいて重要な役割を果たします。
消費者は商品のパッケージデザインや色、素材などの視覚情報から、無意識に商品の価値を測ります。いわゆる「感覚転移」と呼ばれる現象です。
酒ラベルの制作に感覚転移を活用し、ターゲットの心に響くオリジナルデザインを採用すれば、売上向上につながります。
ラベルの色1つでブランディングの成否を分ける可能性があるため、自社の主力商品などのラベルデザインは、プロであるデザイン会社や印刷会社に相談するのもよいでしょう。

酒ラベルのデザイン制作で気をつけたいポイント

酒ラベルのオリジナルデザイン制作で気をつけたい点は、メインとなるターゲット(購買層)を明確にすることです。メインターゲットを明確化すれば、どのようなデザインが好まれるかなどの方向性も定まってきます。
例えば、毎日の疲れを晩酌で癒したいビジネスパーソンをターゲットにするなら、手に取りやすく飽きのこないシンプルなデザインにする、などが一例に挙げられます。
また、酒の味や飲みごたえをアピールするなら、甘口・辛口やすっきり・まろやかなどのイメージをデザインに取り入れるのも良い手段です。ターゲットを意識しつつ、酒が誕生したストーリーや地域の特色を取り入れて、オリジナリティを出す方法もあります。
酒ラベルには消費者に伝えたいメーカー・製造者の想いが込められており、その想いを形にするのがデザインです。
酒ラベル印刷の事例|デジタルのモザイク印刷

デジタル印刷はパソコンに保存したデータを直接印刷するため、アイディア次第で面白いデザインの酒ラベルを制作できます。その1つが「モザイク印刷」です。
モザイク印刷とは、ベースデザインの角度や大小、色などを変えて複数のデザインを作り上げる手法で、一部のデジタル印刷で可能な印刷方法です。モザイク印刷によって、ブランドの統一感を保ちながらさまざまなデザインのラベル制作が行えます。
消費者は遊び心をくすぐられながら自分好みの色や柄を選ぶ楽しみを味わえるため、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
まとめ

酒ラベルは商品を表す「顔」であり、デザイン次第で消費者に対して強いアピールが可能です。酒ラベルの種類や役割を理解した上で、目的に沿ったデザインを施せば、消費者に商品のイメージが伝わりやすくなるでしょう。
印刷する素材や加工を慎重に選び、デザインを引き立てることで、ブランド力向上につながるラベルを制作できます。もしデザインに悩んだ場合や最適な印刷方法を取り入れたい場合には、デザイン会社や印刷会社に相談するとよいでしょう。