オンデマンド印刷とは、印刷版を使わずにデジタルデータを直接印刷する印刷方法などを使って、短納期や小ロットの発注に対応し、幅広いニーズに応える印刷として注目されています。
本記事では、オンデマンド印刷の基本的な仕組みやオフセット印刷との違い、活用事例を解説します。印刷物を制作する際、どの印刷方法が適しているかを把握したい方はぜひ参考にしてください。
オンデマンド印刷とは
オンデマンド印刷のオンデマンド(On Demand)は、印刷用語ではなく、「必要に応じて」を意味しており、必要なものを必要な時に必要な分だけ印刷するというサービスの表現として使われています。
なお、デジタル印刷とはデジタル技術を使用した印刷方法のことで、この技術の発展にともない急ぎの発注やデザインの変更依頼が発生しても、柔軟な対応が可能になってきました。これによりその印刷技術を使用して以前よりフレキシブルに対応できる印刷のことをオンデマンド印刷と呼び、普及してきました。
そのため、オンデマンド印刷はデジタル印刷と同じ意味で使われることが多くあります。この記事でのオンデマンド印刷は、デジタル印刷を意味しています。
オンデマンド印刷とオフセット印刷の違い
オンデマンド印刷(デジタル印刷)とオフセット印刷の大きな違いは、印刷用の版を作成するかどうかです。版の有無によって、印刷のコストやスピード・柔軟性、さらには成果物に違いが生まれます。
それぞれの違いを詳しく解説するので、印刷方法選びの参考にしてください。
①コストの違い
コスト面では、印刷方法ごとにメリットとデメリットがあります。
メリット | デメリット | |
オンデマンド印刷 | ・版がなく初期費用を抑えられる ・小ロットに向いている | ・印刷枚数が多いと割高になる場合がある ・使用できる素材に制限がある場合がある |
オフセット印刷 | ・大量印刷に向いており単価を抑えられる | ・版などの初期費用がかかる ・小ロットに向かない ・内容に変更がある場合に版代等がかかる |
印刷物のロット数によって、コスト面で優れた印刷方法が異なる点に注意が必要です。
②スピード・柔軟性の違い
オンデマンド印刷は印刷版が不要であり、依頼を受けてから短い期間での印刷が可能です。デジタルデータをそのまま印刷するため、デザインの微修正や加筆、削除など、細かい要望にも対応しやすい特徴があります。
一方、オフセット印刷は印刷版の作成やインキの乾燥の時間が必要で、納品までに時間がかかります。また、デザインを変更する場合、細かい変更であっても印刷版の作り直しが不可欠なため、デジタル印刷ほど柔軟に対応できません。
オンデマンド印刷の方が納品までのスピードが早く、柔軟な対応が可能な場合が多くあります。
③成果物の違い
印刷品質としては、一般的にオフセット印刷の方がきれいに仕上がる傾向にあります。
オフセット印刷は、印刷機の性能や印刷版の質が高い技術によって安定しています。インキが紙に密着して細部のデザインが忠実に再現され、高品質な仕上がりが可能です。また、通常のカラー4色印刷では再現できない色(金や銀、蛍光、透明インキなど)も使用できます(※)。
※一部のデジタル印刷機では、使用可能な場合があります
オンデマンド印刷(デジタル印刷)は新しい印刷技術のため、印刷機の製造メーカーや機種、印刷方法によって品質に差があります。一方、可変(バリアブル)印刷と呼ばれる、1枚ずつ異なる印刷物を制作するなど今まで不可能だったニーズに対応可能です。そのため、宛名や番号、画像などを変える印刷にも対応できます。
また、多種類の印刷物を小ロットで制作する場合、オフセット印刷よりオンデマンド印刷の方が適しています。
印刷物の目的やロット、コスト、表現したいイメージに合わせて、印刷方法を選びましょう。
オンデマンド印刷に向いている印刷物
オンデマンド印刷(デジタル印刷)は、その柔軟性や迅速性から、さまざまな種類の印刷物に適しています。
オンデマンド印刷が効果的な印刷物の種類と、その具体的な用途を紹介します。
具体的な印刷物の例
オンデマンド印刷が適している印刷物の例は、以下のとおりです。
種類 | ポイント |
名刺 | ・必要な分だけを迅速に印刷でき、コスト効率が高い ・デザインを頻繁に変更できる |
ポスター | ・イベントやプロモーションに適している ・急なイベント告知や限定キャンペーンなど、短納期で対応できる |
パンフレット | ・製品カタログやサービス案内に適している ・必要なときに必要な分だけ印刷できるため、内容の更新がしやすい |
商品ラベル | ・小ロットのカスタマイズ対応ができる ・期間限定の商品やキャンペーン用の限定ラベルの作成に向いている |
少量の発注や頻繁な更新が求められる印刷物の制作には、オンデマンド印刷が適しています。
業界別の活用事例
業界別にオンデマンド印刷の活用事例を紹介します。
業界 | ポイント |
化粧品業界 | ・取り扱う製品の種類やバージョンが多くても対応できる ・少ない数量の製品や試供品などのラベルに活用されている |
医療業界 | ・患者向けの資料や院内掲示物に活用されている ・健康情報や予防接種の案内など、更新が必要な資料を作成できる ・管理ラベルにバリアブル印刷を用いることで、医薬品や患者データが管理できる |
飲食業界 | ・メニューやイベントポスターに活用されている ・新メニューの販促物を迅速かつ低コストで頻繁に更新できる ・限定イベントやキャンペーンの告知にも使いやすい |
不動産業界 | ・物件紹介パンフレットや広告ポスターに向いている ・最新の物件情報を顧客に対して迅速に提供できる ・オープンハウスや見学会の案内ポスターを短期間で作成できる |
迅速性と柔軟性のあるオンデマンド印刷は、日々新しい印刷物が求められる業界で幅広く活用されています。
オンデマンド印刷に適した印刷会社の選び方
オンデマンド印刷(デジタル印刷)を行う際、信頼できる印刷会社選びが重要です。印刷会社を選ぶときに役立つポイントを3つ紹介します。
①印刷物の品質をチェックする
オンデマンド印刷に必要なデジタル印刷機は、省スペースで導入できるため新規で導入している印刷会社が多く、品質に差があります。実績が豊富で、比較的新しいデジタル印刷機を導入している印刷会社であれば、高品質な仕上がりを期待できます。
急ぎでない場合は、印刷サンプルを取り寄せて複数の印刷会社を比較しましょう。質感や色の再現性、細部の表現なども併せてチェックしてください。
②コスト・納期・品質のバランスを検討する
オンデマンド印刷のコストや納期、品質のバランスも確認する必要があります。
印刷会社によって料金体系が異なるため、ロット数やデザインに応じて適したプランを探す必要があります。複数の会社から見積もりをとり、コストを比較するのがポイントです。
その際、印刷物の数量変更など、後々の状況も考慮して印刷会社を選びましょう。オンデマンド印刷とオフセット印刷の両方に対応している会社を選べば、印刷内容などの条件に合った印刷方法の提案や、ロット数に応じた印刷機の変更の提案を受けられます。
印刷会社によってはロット数や印刷内容によって自動的に振り分けている場合もあり、オフセットで印刷されたものかデジタルで印刷されたものか顧客にはわからない場合もあります。
もし納期に余裕がない場合は、迅速に対応できる印刷会社を選ばなければなりません。追加料金の有無や、配送も含めた実際の納品時期も併せてチェックしてください。
また、安くて早いだけでなく、品質や対応の丁寧さも検討材料の1つです。顧客からのヒアリングを重視している会社であれば、希望どおりに仕上がる可能性が高くなります。
③カスタマイズ対応が可能か確認する
オンデマンド印刷の強みである、カスタマイズ対応が可能かどうかも重要なポイントです。オンデマンド印刷の代表的なカスタマイズとして、以下が挙げられます。
カスタマイズ | ポイント |
用紙の種類や仕上げ加工 | ・目的に応じて最適な素材と仕上げを選べば、印刷物の印象を大きく変えられる |
パーソナライズド印刷 | ・顧客ごとに異なる情報を印刷する ・個別のメッセージや名前を印刷すると、特別感を演出できる(DMなど) |
オンラインツールの提供 | ・オンラインでデザインを作成・編集できる ・デザインの微調整やバリエーションの追加が手軽に行える |
特殊な印刷オプション | ・箔押しやエンボス(浮き出し)加工などがある ・より高級感のある仕上がりになり、ブランドイメージを高められる |
企業のブランディングや特定のキャンペーンなど、自社の目的に沿うデザインの提案が受けられる会社を選びましょう。
まとめ
オンデマンド印刷は、小ロットや短納期の印刷に適しており、コストを抑えつつ柔軟に対応できる印刷方法です。名刺やポスター、パンフレットなど幅広い印刷物に活用されており、記載内容を日々更新するニーズに対応できます。
多種類の印刷物を迅速に制作したい場合には、ぜひオンデマンド印刷を検討してください。